そのドンさんは、建築の勉強のため国費で日本に留学していたカンボジアの優秀な青年なのですが、移動のマイクロバスの中で私が、今の政権にどんな思いを抱いているかと、話を向けると、国費で留学していたにもかかわらず、大きな声で不満を漏らしていました。そんなに、はっきりと言って大丈夫か?と私が尋ねると、「バスの中だけですから、運転手は日本語は全然分からないから大丈夫です。」と闊達に笑い飛ばしていました。
<カンボジア1日目>
この日は、朝からほとんど移動に時間を取られました。モーさんはミャンマーのガイドさんなのでヤンゴン空港でお別れです。その後は我々6人だけです。そのヤンゴンから一度タイのバンコクにもどり、そこからカンボジアのシェムリアップに飛んだのですが、バンコクの国際空港の中のローカル線の寂しいエリアでチェックインカウンターが開くのを1時間半以上待ちました。さらに、エアーチケットの表示とカウンターの表示が違うのでインフォメーションで尋ねると、兎に角そこで待てと云われて、もう1時間待ちました。少し不安も有りましたが、行き交うローカルな人達を見ていると、なんとなくアジアの旅行を実感できて、待つ時間も苦にならなかった私達です。
そんな彼がホテルのチェックインの後、最初に連れていってくれたのは、山登りです。そこは、プノンバケンと言うアンコールワットの北西に位置する、丘と言うか、小山と言うか、でも、結構急な自然の石階段が直線的に付いていて、その辺りでは、唯一アンコールワットの全貌がうかがえる山です。その頂上で、アンコールワットが夕陽に染まっていくのを眺めようと言う訳です。ドンさんの説明では、アンコールワットを作りあげている石は、普通の灰色なのに、どう言う訳だか夕陽に当たると全体が金色に輝いて、それはそれは、神々しいほど美しいのだそうです。


その言葉に乗せられて、その上、沢山の観光客が一様に頂上を目指しているのを見ると、何と無く、これはきっと良いことが有るに違いないと言う群集心理が働いて、皆黙々とドンさんの後を追いかけるのでした。結果から先に言うと、その日は不発でした。頂上で日が沈むまで約1時間待ちましたが、西だけ雲がかかっていて、アンコールワットは金色に輝くことは有りませんでした。でも、プノンバケンの頂上からアンコールワットを見ると、本当にジャングルに埋もれていた遺跡だと言うことが良く分かります。その平らな大地は樹海の濃い緑に覆い尽くされ、有るであろう道すら見えません。360度の視界は、全てジャングルです。そのジャングルの中に明日は私達も入って行きます。

昼過ぎの3時頃、かのポルポト派の拠点が近くに有ったと云う事で、かつては大変危険視されていたシェムリアップに着きましたが、その数日間はアセアンの事務級レベルの会議がシェムリアップで開催されていたので、警備は厳しかったけれど、逆に我々にとっては安心して滞在できる雰囲気でした。と言うのは、今は政権がなんとか安定しているので、全体としては安全なんだけど、ただポルポト時代の影響で、民衆の中に今でも回収出来ていない武器が沢山有ると言う事でした。つまり、普通の強盗が武器を所持してると言う意味です。だから、ホテルの中でも細心の注意をする様にと、私達のガイドをしてくれたドンさん(やはり長い名前で覚えられなかった)が何回も言ってました。