<カンボジア3日目>

次ぎの日には、ハプニングが有りました。アンコール遺跡群の一つで、シェムリアップから北東に50kmぐらいの処に在る、最近人気が出てきたと云われるバンテアイ・スレイ遺跡に行きました。そこの寺院は規模は小さいのですが、紅色砂岩とラテライトで造られていて、全体がピンクに染まっていて、とても美しい小寺と云う感じでした。特に、レリーフが美しく、中でも「東洋のモナリザ」と呼ばれるデバター像は、彫りが深く、何よりもピンクの石に彫られているので女性の美しさが際立っていました。

ところで、ハプニングは帰りの道で起こりました。なにせシェムリアップからの道路は、ほとんど未舗装で、50kmの距離を1時間半かけて来たのですが、帰りのちょうど中間地点で川に架かる橋を渡り始めた時です。“ガタン”と大きくバウンドしたかと思ったら、そのまんま、車体を引きずるようにして、橋を渡りきりました。そこでストップです。車を降りて見ると、車体は変に傾いています。後ろを振り返ると、後続の車が橋の手前で止まっています。良く見ると、なんと、橋の床に穴があいています。橋のスパンは20mぐらいで、本体は鉄のアングル材で出来ていましたが、床は木の板なのです。その板を我々の車は後輪で踏み外していたのです。運良く勢いで飛びあがり橋を渡ることが出来たけど、もし、スピードが緩かったら、漫画みたいにタイヤを床の下に突き出して、橋の上で立ち往生していたでしょう。

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移動式の住居か?
雨季には無くなる船着き場
雨季には水没してしまう広大な蓮の花畑
道路傍の水溜りでお休み中の水牛
近所のお友達も来ました。

 そんなこんなで小1時間ぐらい走ったでしょうか、辺りは大草原に変わっています。道路だけが、昔の田舎の鉄道のように、盛土された堤防のような上を走っています。そして、所々に高床式の小屋のような民家が道路沿いに点在しています。雨季には、辺り一面湖のなかで、道路と民家だけが水上に取り残される事が、容易に想像出来ます。ここら辺りの道路はもっとひどかった。もう、アスファルトは有りません。本当のでこぼこ道を、時速10km以下で大揺れしながら進みます。前方遠くから、小魚を満載したトラックが、右に左に揺れながら近づいてきます。接触したはずみで、崖下に落とされるんじゃないかとか、すれ違う時に上から小魚が降り注いで来るのでは、とか心配で気の休まらない一時でした。そして、次ぎに車は萩の木のようなジャングルの中に入って行きました。もう、そこは道なき道です。その木は高さが3mぐらいで、やっと通れる道は曲がりくねっています。殆ど、人が歩く速さです。ドンさんの説明では、雨季に湖の底と化したこのジャングルは、例の小魚の繁殖地だそうです。この萩のような木が彼らのゆりかごになるのだそうです。あのトラックの小魚の山を見ると、雨季の湖の底でそれらが、うじゃうじゃと、そこら中泳ぎ回っているのが想像出来ます。

シェムリアップのホテル
道路の奥に止まっているのが
我々が乗っていたマイクロバス
東洋のモナリザ像
ミャンマー・カンボジア編
今は乾季なので沖で暮らしている
が雨季になって水位が上がると、
こちらで暮らすそうです。

 アスファルト舗装は一応されているけれど、至る所に穴ぼこだらけ、だから、町から湖に流れ込むシェムリアップ川沿いに進むのだけど、左に傾いたり、右に傾いたり、時速30kmぐらいです。道路沿いだけに民家が有って、所々、車庫みたいな場所に小魚の山が有ります。その近くを通ると、冷房の為締め切ったマイクロバスの中にさえ、あの魚の腐敗した匂いが入って来ました。40度ぐらいの外気温の中、マイクロバスと同じぐらいの量の小魚の山ですよ。そう、例の魚醤です。小魚の塩漬けを発酵させて作る、日本の醤油に相当する調味料です。日本にいる時は、何時かその製造所を見学したいものだと思っていたが、その側を通るだけでたじたじで、とってもじゃないが、車を止めて見学する気にはなれませんでした。

さらにラッキーだったのは、ドンさんの携帯電話が通じたことです。40分ぐらい待ったら迎えの車が来ると言うことでした。辺り一面は小さい森とブッシュが点在するだけの平原です。雨季になったら沼地になりそうな処です。でも今は暑季です。外気温は、やっぱり40度ぐらいです。ドンさんと運転手は橋の上で他の車の安全誘導をしていました。私達は木陰に入って座って休もうとして、ビックリです。アリンコの大群です。うじゃうじゃいます。とっても座れる状態じゃ有りませんでした。そこへ、道路の反対側に何時の間に来たのか子供二人と赤ちゃんを抱いた若いお母さんが、“こちらにどうぞ”って云う感じで手招きしています。そして子供が持ってたゴザを木陰に敷いてくれました。

2001年4月29日〜5月5日

 次ぎの瞬間、目の前が開けたかと思うと、そこは干上がった池のほとりのような処です。少し行くと、ほどなく船着場に着きました。川のような細い入り江に観光船が繋がれています。私達の乗りこんだ、その内の一掃は、まったりとした熱風を受けながら、ゆっくりと沖へと進んで行きます。周りには水上生活者の家々が水面に浮かんでいます。その家々を通り過ぎると船は一気にエンジン音を轟かしてスピードを上げました。行けども行けども景色は変わりません。ただただ船の前方には大海原と思えるような、波穏やかな湖面が広がっているだけです。その先には、湖の水平線です。日本に住んでいると、海の水平線は何度か見る機会が有りました。でも、湖の水平線は始めてです。エンジンを止めると、10人乗りぐらいの小船は、そんな広い湖の中で、なんだかとても頼りなげですが、悠久の昔から、繰り替えされる、雨季と乾季の変化の狭間で、私がその小船にのって、トンレサップ湖に乗り出したことは事実で、私の記憶から消える事はないでしょう。

ゴザを持って来てくれた兄妹

もう一人の6歳ぐらいの女の子がいないなーって思っていると、上半身はやっぱり裸だけど、さっきと違うズボンをはいて、おしゃれな帽子もかぶって森の中から、はにかみながら出て来たではないか。若いお母さんは、私達の隣に座って、ふくよかなオッパイをもろ出しで、赤ちゃんに含ませながら、その女の子のしぐさを、にこにこしながら眺めています。木陰の外は強烈な日差しです。でも、その木陰の下で、そんな光景を見ながら、残っていた魔法瓶の冷たい水を飲むと、日本から遠く離れた、こんな見知らぬ田舎にいても、なぜだか心の安らぎを感じるひとときでした。

 

反対方向の風景
6日目
魚を捕るための施設
着替えた妹も戻りました。

 そんな記憶の蓄積が嬉しくて、私達夫婦の小さな旅行は続けられますが、今回のミャンマーとカンボジアの旅もそろそろ終わりに近づきました。町に帰る前に、市場を見てみたいと、ドンさんに尋ねると、ちょうど帰り道に1ヶ所有るので寄りましょう、と連れて行ってくれた所はオールドマーケットと言う名前どおりの、古い市場でした。そこは、カンボジア庶民の生活がぷんぷん匂う処で、実際、食材売り場はゆっくり見て回ることが出来ないぐらい、強烈な匂いで、おまけに午後のけだるい熱気が充満しているようで、そうそうに、引き上げた私達でした。

そんなハプニングも有ったけど、昼過ぎにシェムリアップの町にたどり着くと、昼食を済ませた後、またホテルに帰って一休みです。そして、カンボジア最後の午後はトンレサップ湖です。ドンさんは、すごく興奮しています。本人もまだ一回しか行った事がないんだけど、湖に着くまでのドライブがすごくエキサイティングなのだそうです。トンレサップ湖はアジアで一番大きな湖で、そこから流れ出るトンレサップ川はメコン川に合流します。雨季と乾季では、その大きさが3倍も違うそうですが、今は乾季の終わりなので、湖は最も小さい状態です。だから、観光船に乗るためには、雨季には湖の底になってしまう道路を延々と走る事になる訳です。でも、その前に、町から雨季の船着場(町に凄く近くなる)に着くまでの道路さえもひどかった。

 そこに腰を下ろして、ふと見ると、小さい森の中に民家らしきものが見えます。そして、そこから、2匹の犬がものめずらしそうに出てきて私達の回りをうろうろし始めました。その次に、しゃもの親子の群れです。私達の直ぐ前まで来ています。その次には、なんと2匹の子豚です。彼らも興味津々と言う風で私達の前までやって着ました。子供の一人は8歳ぐらいの男の子で、目の前の木に登って私達を見下ろしています。そこへ近所のお友達の男の子も来ました。